Be The one
| Gallery・Ⅰ | 手塚国光 |
2人で弁当を広げていた昼休み、が遠慮がちに訊ねてきた。
裏庭の芝生は人気がなく、ゆったりとした時間が流れていた。
「ああ。どこか行きたいところがあるのか?」
俺の言葉には、嬉しそうに頷いた。
「うん。あのね、海に行きたいなって思って。いいかな?」
そう言って小首を傾げるさまに、フッと笑いを誘われた。
元々断るつもりなどなかったが、そんな表情をされたら絶対に断れないだろう。
それに、今日の放課後は俺の方から誘おうと思っていた。
先に、に誘われてしまったがな。
「分かった。学校が終わったら行こう」
「やった!国光、ありがとう!」
「気にするな。俺も楽しみにしている」
俺が頷くとは、嬉しそうに笑った。
とこうして一緒に過ごす時間が、俺は何より大事だった。
俺は制服から私服に着替えると、引き出しから1つの箱を取り出した。
今日は、の誕生日―――。
俺にはかなりの勇気が必要だったが、にと買ったネックレス。
不二がついててくれなければ、店にも入れなかったかもしれない。
俺はそれをポケットにしまうと、家から出た。
とは、駅で待ち合わせということになっている。
「私の家と国光の家は、反対方向だもの。時間が勿体ないから」
「だが・・・」
渋る俺に、はにっこりと笑った。
「今日は誰の誕生日だっけ?」
「・・・分かった」
あの有無を言わさない笑顔には、いつも負けてしまっている。
だが、ただの我が侭ではなくて俺のことを考えていてくれているのも分かるから
引き下がっているのだが。
「じゃ駅でね。あ、帰りも送ってくれなくていいから」
「しかし、それは・・・」
「だって余計に時間がかかるじゃない。HR終わったら、すぐ帰ろうね」
「・・・分かった」
内心不満はあったが、が言い出したら引かないことも分かっているから頷くしかなかった。
「・・・まだ、おめでとう、も言えていないな・・・」
待ち合わせ場所で、ポツリと呟いた。
朝から何度も言おうとしているのに、いざとなると口が動かない。
「あ、国光~!」
俺の言葉にかぶせるように、が駆け寄ってきた。
少し息を上げたまま、にっこりと笑う。
「やっぱり国光の方が早かったね。急いできたから今日こそはって思ってたのに」
「が早く来いと言ったんだろう?」
そんなことを、悔しがるのも可愛く思えて。
「ま、いいか。それじゃ、行こうよ」
「そうだな。近場でいいんだろう?」
買っておいた切符を渡すと、はにっこりと笑った。
嬉々として歩くと、一緒に向かったのは郊外の海だった。
は、どうやら砂浜を歩きたかったらしい。
海に着くなりは歓声を上げて、はしゃいでいた。
季節はずれの海には、俺達以外は誰もいない。
「ねえ、国光もおいでよ!」
波打ち際から、が手を振ってくる。
その笑顔を見ていると、心が凪いでくるから不思議だ。
「いや、俺はいい」
「楽しいのに~」
そうは言いながらも、俺が一緒に遊ぶというのは期待していなかったようで。
1人で飽きもせず波と遊んだり、貝殻を拾ったりしていた。
その様子を眺めているのも、思いがけず楽しいものだった。
これではどちらがプレゼントを貰っているのか、分からないな。
「う~ん、楽しかった!」
ひとしきり遊ぶと、は笑顔で戻ってきた。
俺達は肩を並べて、砂浜に座り込む。
「そうか、良かったな」
夕陽のせいか、の頬が赤く見える。
「今日は付き合ってくれてありがとね、国光」
「いや・・・」
俺が静かに首を振ると、は優しく微笑んだ。
俺はポケットから箱を取り出すと、の前に差し出す。
はきょとんと俺を見上げてくる。
俺はの手にそれを乗せると、ふいっと顔を逸らした。
はパッと喜色を露わにすると、カサカサと包装を解き箱を開ける。
言葉が見つからない。
こういう時は、どういう表情をしていたらいいのだろうか。
が気に入ってくれるかが、気になって仕方なかった。
「・・・綺麗・・・」
はその一言を落とすとじっと箱の中を見つめた。
シンプルな造りにの誕生石が1つ。
はそれを手に取ると、にっこりと笑った。
その笑顔に、思わず見とれてしまう。
の笑顔は今まで見てきた中でも、1番綺麗だったから。
「ありがとう、国光。最高のプレゼントだよ」
うつむいていた顔を上げ、俺は立ち上がって砂を払った。
続けても立ち上がって、それを俺の目の前で付けてくれる。
の言葉に後押しされるように、俺の口からも思いの外すんなりと言葉が出た。
「誕生日おめでとう。が生まれてきてくれたことが俺は嬉しい」
言った後で、まるで父親のようなセリフだった気がして仕方がなかった。
だが今言った言葉に、偽りはない。
こうして2人でいられることが、まるで奇跡のようにも思えるからだ。
こんなにそばにいて欲しいと思う存在は、他にはない。
茜色から、群青色に変わる空の下で。
俺達はじっと見つめ合っていて。
そこには優しい空気が流れている。
「私もよ。大好き、国光」
「ああ・・・」
「国光もちゃんと言ってよ」
「ああ・・・いや・・・」
「国光って、本当に照れ屋さんよね~?」
「・・・すまない」
「そんなところも大好きなんだけどね」
そう言うと、は俺の腕に抱きついてきた。
「・・・俺もお前が好きだ」
「・・・国光」
「・・・俺の側にいてくれないか・・・ずっと」
の柔らかな髪をそっと撫でる。
そうしていると愛おしさが溢れて思わず抱き寄せていた。
暖かな温もりが腕の中にあることに、幸福感を抱いて。
「・・・愛してる、」
ここまで読んでくださって、ありがとうございました。
18.000を踏んで下さった夢野さまに捧げます。
リク内容は「手塚に誕生日のお祝いをして貰って、癒されたい」でした。
癒されてる・・・のか、はなはだ微妙ですが私にしては珍しく
ほのぼので行けたと思うのですがいかがでしょうか?
夢野さま、拙い出来ですがお受け取り下さいませ。
2004/09/14 高城 侑奈さまより
(閉鎖なさいました)
Angel Tears様のキリリクにて描いてくださった手塚夢です。
密かな夢だった手塚さんからの誕生日祝いをこのような形で実現してくださって、当時とても嬉しかったことを今でも覚えています!誰もいない季節外れの海というシチュエーションが最高ですよね。ほのぼのとした優しい空気と穏やかな時間が心地よく大好きです。今でも終始頬がゆるゆるしてしまうほど、私の癒しになっています♡
手塚さんが、仕方ないな…って、苦笑しながら引き下がる場面がとくに好きでお気に入りです!
素敵なキリリクを描いてくださって本当にありがとうございました。一生大切にします♡
夢野菜月(2025.2.3/リニューアルにて再up)
Angel Tears様のキリリクにて描いてくださった手塚夢です。
密かな夢だった手塚さんからの誕生日祝いをこのような形で実現してくださって、当時とても嬉しかったことを今でも覚えています!誰もいない季節外れの海というシチュエーションが最高ですよね。ほのぼのとした優しい空気と穏やかな時間が心地よく大好きです。今でも終始頬がゆるゆるしてしまうほど、私の癒しになっています♡ 手塚さんが、仕方ないな…って、苦笑しながら引き下がる場面がとくに好きでお気に入りです! 素敵なキリリクを描いてくださって本当にありがとうございました。一生大切にします♡
夢野菜月(2025.2.3/リニューアルにて再up)

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