応援席
| Gallery・Ⅰ | 跡部景吾 |
いつもここから貴方を応援することしか出来なかった。
だって貴方は。
コート中に「氷帝」コールがこだまする。
そのコールに臆することなく、次々にスマッシュを決めていく人影。
自信満々に満ちたその顔に、もう勝利しか見えていない。
「ゲームセット!ウォン・バイ 跡部!6-0!」
氷帝学園テニス部部長、跡部景吾。
「キャー!跡部様ー!」
「素敵ー!跡部様ー!」
黄色い声援も氷帝コールに負けず劣らず飛び交っている。
自分もこうやって声をかけたいのだが、やはり勇気が出ない。
今日もかっこよかったなぁ……。跡部先輩……。
試合の後のささやかな感傷に浸る時間。
私はこうやって跡部先輩の試合の後、試合を思い返しては跡部先輩を頭の中で想い描いていた。
ここは小さな喫茶店。
学園から少し歩く、路地裏にある寂れた喫茶店。
昔はここも氷帝学園の生徒で賑わっていたのだが、
最近駅前に出来たおしゃれな喫茶店が出来、 みんなそっちへ行ってしまった。
だけど私は今もここを利用している。
マスターさんもいい人だし、味も良いし。
「いらっしゃい。ちゃん。今日は試合だったのかな?」
「え?何で解るんですか!?」
「一番良い顔してるから。今日は憧れの先輩には近づけたのかい?」
「全然ダメです…。取り巻きが多すぎて半径10m以上近づけないって感じですよ。」
「はは。すごいねぇ。」
マスターとは毎日通う内に仲良くなった。
33才のダンディーチックなマスター。
こうやって私の話をいつも聞いてくれる。
いつも応援席からしか跡部先輩を見ることが出来ない。
いつも試合の時しか跡部先輩を見ることが出来ない。
何か……きっかけがあればいいんだけどなぁ……
と、その時店の扉が開いた。
カランカランと音をさせながら店に入ってきた団体に、思わず私はギョッとしてしまった。
「えらい寂れてもうたなぁ。しばらく来てへんかったからなぁ。」
「おい忍足、何考えてんだお前は。こんな寂れた所連れて来やがって。」
「まぁまぁいいじゃん。たまにはこうやってみんなで寄り道すんのもさ。」
「ホントに人がいませんね。俺もここは結構利用してたのに。」
「あー俺もだ。ここ結構旨ぇよなー。」
「ウス。」
「ぐー……。」
う、嘘………
テニス部のレギュラー陣勢揃い……!?
私夢でも見てるのかな……。
「あ、カウンターに誰かいましたね。」
同じ2年の鳳君がカウンターでぼーぜんとしている私に気付いた。
「久し振りだな、忍足君。」
「え、え、マスター知り合いなんですか!?」
「昔は君と同じように毎日来てくれてたんだよ、忍足君は。」
「堪忍な、マスター。レギュラーに上がってから寄り道する時間なくてなぁ。」
状況について行けてない私は、跡部先輩が近くにいるというより、
レギュラー陣に囲まれてることのほうがパニックだった。
鳳君とは同じクラスなのだが、一度も話したことはなかったし。
「とりあえず注文聞こうか?」
カウンターの前にあるテーブル席についた先輩達は、次々に注文していく。
私は心臓が破裂しそうな程ドキドキ鳴っているのでまともに後ろを向くことが出来なかった。
せっかく真後ろに跡部先輩がいるっていうのに………
「おい。そこの女子。」
「………!え…わ、私…ですか!?」
「お前以外に誰がいる。」
「跡部…。いきなり声かけたから彼女びっくりしてるやん。しかも"女子"って……名前聞いてから呼びーや。」
「俺はお前と違って女の名前なんか興味ねぇ。」
え…、え…。
な、何が起こってるんだろう。
今私……跡部先輩に話し掛けられてる…?
「さんだよね?同じクラスの。」
「あ…し、知っててくれたんだ。」
「あはは。当たり前だよ。クラスメイトじゃないか。」
鳳君に名前を覚えてもらってたことも驚いたけど、跡部先輩が自分に話し掛けてくれた事の方が驚いた。
いつも取り巻きに囲まれても、自分からは一切取り巻きの女の子達に話し掛けなかった跡部先輩が。
今……私に話しかけてくれてる………。
マスターがドリンクを運んできた後は、いくつか質問をされた。
ここにはよく来るのか。
レギュラー陣のことは知ってるのか。(知らない訳ないのに…)
いつからここに来ているのか。
ほとんど話してたのは忍足先輩と向日先輩で、跡部先輩はあまりしゃべらなかった。
でも私はそれで十分だった。
いつも応援席からしか見てなかった先輩が、今こうして目の前にいる。
その事実だけで私は嬉しかった。
試合では見れないような表情、口調、仕草、姿。
跡部先輩の色んな面が見れた気がした。
「ほんならマスター、そろそろ帰るわ。」
「またいつでも来いよ。この通り、暇してるからな。」
マスターが忍足先輩と会話している間に、次々と帰って行くレギュラー陣。
夢のような時間だった。
と、ホッとしたのもつかの間、店から出たはずの跡部先輩が私の横に寄ってきた。
「おい。」
「へ…?あ、あ、跡部先輩!?」
「お前、今度はもっと前の方に来て応援しろ。あんな後ろに居たら俺の姿も見えねぇだろ。」
え……?え……!?
「後、試合終わったら毎回俺の所に来い。解ったな。返事は?」
「は、はい…ッ!!」
「いい返事だ。じゃあな。」
カランカラン…。
い、今……何を言われた?
"もっと前に来て応援しろ。あんな後ろに居たら俺の姿も見えねぇだろ"
なんで応援席の一番後ろで応援してるの知ってたの?
誰かと間違えてる?
"試合終わったら毎回俺の所に来い"
これ…夢じゃないよね……?
ホントに……あの跡部先輩が……
「跡部さん、さんのこと知ってたんですか?」
「あん?顔はな。応援に来る女子はほとんど前に来て俺を応援してるのに、あいつだけは一番後ろに居たから覚えてたんだ。」
「そう言や、試合が終わった後、跡部んとこに女子が群がるのに、あの子だけ来ーへんかったな。」
「ああ。他の女子と違って俺に近付こうって考えてねぇみてぇだな。面白ぇじゃねぇか。」
いつもここから貴方を見てるだけしか出来なかった。
いつもここから貴方を応援することしか出来なかった。
いつもここからお前を見ていた。
いつもここから一番遠い席に居るお前を見ていた。
今度からはちょっと特別な……
私だけの
お前だけの
応援席。
~fin~
---------夢野菜月様へ★
すごく遅くなりましたが、菜月さんのハッピーバースデー夢です(汗)
ホントは当日にお渡しする方がよかったのですが、 忙しくてなかなか完成出来なくて………
初挑戦の跡部様夢なので、色々と至らない所が勃発で申し訳ないです!!
しかも名前変換超少ない上に、跡部さん名前呼んでない……
ダメ出ししてくれてOKなんで!返品可なので!!!
そして凄い遅いですが、お誕生日おめでとうございます!!!菜月さん★
---------管理人言い訳
初挑戦の跡部さんドリームです。。。
もう何から言い訳したらいいのやら……。 もっと跡部さんを勉強してこいって感じですね!すいません!
レギュラー陣が出てきた時に一言ずつみんなが喋ってるんですが、 それぞれの口調を捉えるのがホンマに難しくて……
ちゃんと誰が何を喋ってるのか解ってたらいいんですが……(汗)
南一輝さまより
(閉鎖なさいました)
その昔、誕生日プレゼントとして描いて下さった跡部夢です。
居心地の良い喫茶店の雰囲気とマスターのところへあの氷帝Rの面々が。跡部さんらしい雰囲気に心底惚れ直します(*^-^)
ヒロインと跡部さんの何とも言えない距離感と最後の彼の視点、そして突っ込みを入れる忍足さんが特にお気に入りです。大好き♡
なんて素敵なプレゼントでしょう。こんなに嬉しいことはありません。
ありがとうございます!私の宝物としてずっと大切にさせていただきます♡
夢野菜月(2025.2.4/リニューアルにて再up)
その昔、誕生日プレゼントとして描いて下さった跡部夢です。
居心地の良い喫茶店の雰囲気とマスターのところへあの氷帝Rの面々が。跡部さんらしい雰囲気に心底惚れ直します(*^-^)
ヒロインと跡部さんの何とも言えない距離感と最後の彼の視点、そして突っ込みを入れる忍足さんが特にお気に入りです。大好き♡
なんて素敵なプレゼントでしょう。こんなに嬉しいことはありません。
ありがとうございます!私の宝物としてずっと大切にさせていただきます♡
夢野菜月(2025.2.4/リニューアルにて再up)

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