桜舞う季節

| Gallery・Ⅰ | 手塚国光 |

季節。春。
桜は満開。まだ4月の始めだというのに早くも満開な桜。
そよっと風が吹くと、桜の花びらの雨が降る。

その花びらが舞う中、息を切らして全速力で走ってる中学生が一人。
重そうなテニスバッグを肩に担いでいるにも関わらず、速い。

その中学生が急いで向かっていった場所は、



ある病院の一室だった。






ある病室のドアの前。
手塚は乱れた呼吸を整える。
スーハーと一回深呼吸をすると、乱れた呼吸は不思議と収まった。
呼吸の後は気持ち。
ドキドキと鳴る自分の心臓をなんとか落ち着かせる。


コンコン。


「はい・・・。どうぞ。」

「失礼します。」


中へ入ると、おっとりした優しそうな母親が出迎えてくれた。


「国光君・・。来てくれたのね。」
「はい。・・・あの、手術の方は・・・?」
「・・・成功したわ。」


手塚の表情が今まで見た事もないぐらいの安心感で満ちあふれた。

「今はまだ麻酔が聞いて眠ってるけど、直に目を覚ますわ。それまで傍に居てあげて。」

テニスバッグを壁際に置き、少女が寝ているベッドに近付く。
ベッドには小さな寝息を立て、肌の白い少女が眠っていた。
以前見たより顔色が元に戻っている。
手術前の彼女はかなり危ない状態で、顔色もいつも蒼かった。






彼女の名前は


手塚が腕の治療で通院していた頃に知り合った。
彼女は幼い頃、心臓に病を持ってしまった。
それ以来ずっと入院生活。
普通に生活していれば、今頃は手塚と同じで中学3年生だそうだ。

知り合った頃はまだ一人で歩ける状態で、よく病院のロビーで話をしていた。
仏頂面の手塚と話が合ったのは、がアウトドア好きだったため。


「・・・・行った事ないのか?」
「うん、ないの。でもすごく憧れててね、よくお母さんにアウトドア雑誌買ってきてもらって読んでたの。
 海とか山へ行って、キャンプして。夏なら夜は花火かな。キャンプファイヤーもいいよね。
 海へ行ったら釣りもしたいな~。いっぱい釣って、釣った魚をその場で調理して食べるの。楽しいだろうな~。」

目をキラキラさせて話すに、手塚はしばらく見とれてしまった。
女性を可愛いと思ったのはこの時が初めてだった。

「じゃあ、行くか?」
「え?」
が退院したら、釣りへ。」
「ホント!?手塚君!?」
「いい場所を知っているんだ。近くに顔が利くエサ屋もあるし。」
「やったー!ワー、すごく楽しみ♪早く病気治さなきゃだね!」


そんな会話をしたのは、知り合って1ヶ月目。
その1週間後、の体調は急変した。
それは手塚の腕が完治するのとほぼ同時だった。
ずっと自分の腕を心配していたに、完治したと報告しようとした矢先の出来事。

心臓の病気は思ったより早くの体を蝕んでいた。
治すには50%の確立の手術。
成功するか、失敗するか、五分五分の確立の手術しかなかった。
の両親は、の意思に任せると言った。
だがは、何も迷うこともなく、直ぐに手術を受ける事を決めた。


「本当にいいんだな・・?失敗するかもしれないんだぞ・・・。失敗したら、死んでしまうんだぞ・・・。」


手術日の3日前。ベッドで弱々しく横たわるに、手塚はそう言った。
正直自信がなかった。手術が成功する確率が。
とても難しい手術だという。
手塚の知らない間に、の存在が手塚の中で大きくなってきている。
そんな中でもし、が居なくなったら?
考えたくなかった。


「成功するよ。」


弱々しい笑顔で、は言った。


「信じてなきゃ、奇跡なんて起きないよ?あたしは絶対信じてる。手術が成功するのを。」
「・・・。」
「神様は居るよ。だって、国光君に逢わせてくれたんだもん。ずっと病院生活のあたしに。」
、俺は・・・」


「春になったら。」

「え・・・?」

「春になったら連れてってね。この前話してた釣りの穴場に。」

「・・・あぁ。連れて行く。絶対。」




手術は何回かに分けて行われた。
その間は面会謝絶。
手塚は気が気じゃなかった。




4月8日。最後の手術の日。
部活が終わった手塚の携帯に、の母親から電話がきた。
手術成功の報せだった。



「ホントにねー、一時はどうなるかと思ったけど。無事に成功して本当によかったわ。」
「ええ、そうですね。俺も、すごく嬉しいです。」
「国光君、本当に心配してたものね。この子ね、手術の間ずっと国光君と釣りに行く話ばかりしてたのよ。」
「え、そうなんですか?」
「手術の間だけじゃないわ。国光君と会った日は話の内容をよく私に話してたのよ。ホントに国光君のことが好きなのね。」

「・・・・(照)」







早く、目を覚ませ。
俺だけお前の気持ち知ったって意味がないだろ。
俺も早くお前に伝えたい。
言いたい事が山ほどあるんだ。


春になったら・・・・



いつ行こうか。

早く元気になって、一緒に行きたい。


が好きだと。早く伝えたい。




季節は春。


窓の外では、花びらが景色いっぱいに舞っていた。










     ~fin~





ずっとお世話になっている大尊敬の菜月さんに献上した手塚夢です。 随分前にリクをもらってるんですが、それとは別に押し付けてしまいました; 手塚の夢を書いたのは2年ぶりだったので、もう似非度120%の手塚で申し訳ありません!!! 丁度菜月さんが精神的に凹んでいらっしゃったので、少しでも元気になればと思って書きました。 これは菜月さんのみDL可です。 お気に召していただけたようで嬉しかったです!!!

2010.07.15 (訂正済)


南一輝さまより (閉鎖なさいました)



 とある手術をした私が元気になればという想いで、突発的に描いてくださったとのこと、この瞬間を絶対忘れません♡それほど嬉しかったのです。

 術後、麻酔で眠っているヒロインの傍で見守る手塚さんと、その手塚さんが過去を回想するシーンの絶妙さ加減といったら!
 手塚さんらしさに惚れ惚れします。

 当時、精神的大打撃を受けていたときに心の篭った贈り物をいただきどれほど勇気づけられ癒されたことでしょうか。本当にありがとうございました。
 一生涯ずっと大切にさせていただきます♡

 夢野菜月(2025.2.4/掲載許可済みのためリニューアルにて再up)

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