今更、後悔してももう、遅いけれど。
今更、謝ってももう、遅いけれど。
| Gallery・Ⅰ | 真田弦一郎 |
「それは…本当なのか、。冗談ならよせ」
「だから…さ、冗談なんかじゃないんだって。ホントホント」
の口から出た言葉と、の態度が比例しておらず、俺はいまいち理解出来ずにいた。何故は笑っているのだ?何故は…
「お医者さんに言われたし。もう余命三ヶ月だって」
吹き抜ける風が呆然と立ちつくす俺をあざ笑っている気がした。余命三ヶ月なのは俺じゃない、今目の前に居るだというのに。きっと今俺は間抜けな顔をしているのだろう。はというと、少し可笑しそうに笑っただけだった。どちらが余命三ヶ月なのか。端から見ればきっと分からないだろう。
「あ、真田。また来てくれたんだ?」
「ああ…」
の衝撃的告白を受けて二ヶ月。入院となったの元へ、俺はほぼ毎日と言って良い程頻繁に通っていた。どうやらがこの話をうち明けたのは、の本当の親友であるクラスメイト一人と俺だけらしい。親は仕事が忙しく滅多に来れていないようだ。そのせいか、俺が見舞いにくる時には誰も居ない。いわば二人きりという状況なのだ。
「果物持ってきてくれたの?ありがとう」
俺の目の前では笑顔を絶やさない。だが、俺は知っている。俺が病室へ入る瞬間、ほんの一瞬だけ見える一人の時の顔。酷く寂しそうでそれでいて哀しそうな顔。まるで生きる気力を失っているかの様にさえ見えたこともあった。
俺はの力になる事は出来るのだろうか?俺は医療に関して、人間の生命に対してあまりに無力だ。どうしてやる事も出来ない。ただ、こうして見舞う事しかできない。それは当然かもしれない。だが、当然などという言葉だけで片づけたくなかった。は、俺に恋という気持ちを植え付けた。と出逢って、初めて「恋」という物を知った。そんな相手の、こんな姿を見て、当然なんて思える男が居る筈がない。
「あ…真田、そろそろ…診察の時間だから、さ。」
「あ、ああ…すまないな…」
俺が考え事をしている間に、随分の時が過ぎていたらしい。何ということだ 俺にとって、といる時間は一秒一分だって大切だというのに。何より、に空白の時間を与えてしまったということが悔しかった。
「……じゃあね、真田」
何てことのない、台詞。別れ際に必ずが言う、台詞。だが今日は 今日だけはその台詞が嫌に耳について。の寂しそうな笑顔が、やけに目について。胸騒ぎが止まらない。なんなんだ、この感覚は。言いようのない不安感がのしかかる。俺は今、この言葉をに言わなければならない気がした。だから、言う。
「、俺はお前のことが…」
「真田」
俺の声が、の声によって遮られる。そのの語調は強く、俺は口をつぐんでしまう。は俯いていた顔をゆっくりと上げて俺を見つめる。その瞳はどこか儚く、だが穏やかな物だった。そしてゆっくりと、口を開く。
「あのね…その言葉は、明日聞きたい」
「……何故だ…?」
「わかんない…でも、今日聞いたらいけない気がするの」
が何を言いたいのか、俺には分からなかった。だが、の意志を優先させることにした。今無理に気持ちを伝えた所で、は困ってしまうかもしれない。
俺は素直に諦め、今日は帰ることにした。
「ではな、…」
「うん」
「…また…明日、逢えるのだろう?」
俺がそう言うと、は優しく、綺麗に微笑んで頷いた。
美しいの笑顔を見て、俺は安心した。そして病室を後にした。
は一度たりとも、俺に嘘をついたことはない。その事実が、俺の心をより一層安心させた。考えてみれば、明日俺はに気持ちを伝えるのだ。その事実の方が、俺にとっては緊張する。
ああ、明日どんな顔でに逢えば良いというのか。もきっと、俺の言いたいことは分かっている筈だ。今更になって、恥ずかしい…という気持ちがこみ上げてきた。告白、など…柄ではないことは重々承知だ。飾らずとも良い。俺は俺の気持ちをにただ伝えるだけで良いのだから。
俺は気持ちを落ち着けて、床に就いた。
夢を、見た。
はとても楽しそうに、俺の隣りで笑っていて。
二人で寄り添い、ただただ語り合っている 幸せな夢を。
目が覚めた時。その世界にはもう、居なかった。
病院に行った時、既に死後の処置が始まっており関係者以外立ち入ることは出来なかった。俺はただ呆然と廊下の壁にもたれかかっていた。
何故、だ。何故だ、。お前は明日逢えると、そう言ったではないか。お前は嘘を付いた事など、一度もなかっただろう。それなのに、何故。
問いに答えてくれる者はいない。ただ漠然と、俺は問いかける。
誰にでもなく、俺自身に。
そんな時、の母らしき人が俺の目の前に現れた。泣きはらした目で、俺を見つめながら小さな手紙を俺に手渡した。その人は何も言わず、また病室へと戻っていった。俺はその手紙をゆっくりと開ける。そこには、小さく、だが確かにの文字が書かれていた。
ごめんね。ごめん。嘘をついてごめん。好きになって、ごめん。
ポツリポツリと、手紙に水玉模様が出来る。それは俺の、涙のせいだ。
謝るな。お前を嘘付きにしたのは俺だ。お前が謝る事はない。
俺はお前が好きだ。お前も俺を好いていてくれたのだろう?なら何故謝る?俺もお前が好きだ。好きなんだ。だから頼む、謝らないでくれ。頼む。
この想いはもう、伝えることすら叶わないというのか。
涙で お前の字を見ることも できない。
ねぇ、私 夢を、見たの。
真田はとても嬉しそうに、優しく微笑んで。私の隣りにいて。
ただ体を預けて、二人でずっとずっと、お話をしている 哀しい夢を。
再び地上でキミと逢えた時には どうか 最高の 幸せを 。
Again with you
そしてあの言葉を聞かせて
そしてあの言葉を聞かせて
Again with you -テニプリ-
自己満足度:★★★★
長らくお待たせしてしまったリクエストの真田悲恋夢です。
いつもながら遅い仕上がりで申し訳ないです…;
ですが今回のお話、珍しく結構気に入っております。
普段よりちょっと考えて書いてみたので、この話の奧にある何かをくみ取って貰えれば幸い。
何故、ヒロインは今日ではダメだと思ったのか。
何故、ヒロインは「哀しい」夢を見たのか。
答えはないけれど、考えてくれたら嬉しいです。
ジョセ子さま様
(閉鎖なさいました)
以前、ジョセ子様のサイト2周年記念アンケートに図々しくも参加させていただいた際の夢です。
リクエストには、好きだと気付いた相手が余命僅かだと知ったキャラの悲恋夢を手塚・跡部・真田の何れかで……と綴らせていただいたら、なんと真田さんで採用して下さいました。ありがとうございます!!
私のなかで、真田さんのキャラ度を上げてくださったのがジョセ子様が過去に描かれた彼の夢です。
今回、二人の距離感と悲恋というキーワードのなかにある温かみが絶妙で、かつその余韻が私にとって凄く心地良いのです。加えて、不器用な真田さんの初恋心情に、私自身の心が締め付けられもう大変ですっ(>_<)..
特にお気に入りなのは、真田さんが床に就いた後のあの対比表現からなのですが 「読みやすい小説」より「小難しい小説」を描くのが好きだと仰るジョセ子さまだけあって、このように色々と考えさせられる夢は初めてでした♡
答えがない問いかけ 私なりの見解を読んでみる…
以前、ジョセ子様のサイト2周年記念アンケートに図々しくも参加させていただいた際の夢です。
リクエストには、好きだと気付いた相手が余命僅かだと知ったキャラの悲恋夢を手塚・跡部・真田の何れかで……と綴らせていただいたら、なんと真田さんで採用して下さいました。ありがとうございます!!
私のなかで、真田さんのキャラ度を上げてくださったのがジョセ子様が過去に描かれた彼の夢です。
今回、二人の距離感と悲恋というキーワードのなかにある温かみが絶妙で、かつその余韻が私にとって凄く心地良いのです。加えて、不器用な真田さんの初恋心情に、私自身の心が締め付けられもう大変ですっ(>_<)..
特にお気に入りなのは、真田さんが床に就いた後のあの対比表現からなのですが 「読みやすい小説」より「小難しい小説」を描くのが好きだと仰るジョセ子さまだけあって、このように色々と考えさせられる夢は初めてでした♡
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